ちょっと万年筆の話を。 - 万年筆・Moonman M8 のレビューも兼ねて -
中華万年筆の話をしたい。
そう、中国で作られた万年筆のこと。
でもの前に、いくつか万年筆について話をしようと思う!
万年筆と言うと、どういうイメージがあるだろう。
高級だとか、面倒とか…。むしろそんなにイメージがわかないという人のほうが多いかもしれない。基本、万年筆なんて趣味以外で出番はないものだし。
万年筆というのは単純に言えば「ボールペン登場以前に主流だった筆記具」と言うことができると思う。高級というイメージは、とりあえずおいておこう。
ボールペンが実用的になったのは1950年代のことで、しかも当時は筆記具としてボールペンは信頼性が低かった。上手くかけなかったり、品質にばらつきがあったり、敵入れにくかったり。だからボールペンが登場してもしばらくは「ボールペンは公用書類に使っちゃいけません」と言われていた。
ボールペンが認められはじめたのは1965年ごろ。実に10年以上も「ボールペンなんてダメ。万年筆じゃないと」と言われてきたというわけ。
1960年代にアポロ計画があって、そこで「宇宙でも使えるボールペン」が登場したあたりから、ボールペンの信頼性にスポットライトが当たったのかなぁとちょっと思ってる。
だから、まぁ、昔は万年筆は「信頼できる筆記具」の代表だったわけだね。
履歴書とか公用書類とかで、「黒または青のインクで記入」と書いてあるのを見たことがある人は多いと思う。
あれはじつは万年筆を想定して書かれている文言。万年筆のインクは黒とブルーブラックが主流だった。で、このブルーブラックが「青」なんだけど、昔のブルーブラックは時間が経てば黒に変色するという特徴があった。だから公用書類にも使用が認められていたわけ。完全に乾けばそこそこ耐水性もあったし。だから「事務仕事をする=万年筆で書きものをする」ということだった。昭和の昔の「事務員さん」のイメージとして、ワイシャツの上にアームカバーをしているイメージがあったと思う。あれは万年筆を仕事で使っていたからだね。インクがワイシャツの袖についちゃうからね。
そういうわけで、「万年筆=信頼できる筆記具=公的書類に使える筆記具」という図式が成立していた。
だから昔は「大学合格/会社入社の記念に万年筆を贈った」というわけだね!大学生や会社員になれば公的書類を書かないといけなくなるので、公的書類を書くために万年筆が必要だった。
もともとは万年筆は実用のための筆記具の域を出なかったんだけど、
万年筆を持つ=公的書類を書く立場になる=一人前の人間になる
と意味がスライドしていって、イニシエーション的な意味が付加されたんだと思ってる。
だから万年筆それ自体に高級感があるわけじゃなくて、万年筆を取り巻くイメージが一人前感を醸し出していると言えるね。
ただまぁ、もうボールペンの信頼性が確たるものになったし、今やボールペンすら飛び越えて、パブリックブロックチェーンに認証システム乗っけるのが一番、みたいな話になっているわけだから、万年筆は完全な趣味のものになっているけれどもね。
で、中華万年筆の話に戻ろう。
万年筆はあくまでも実用であって、高級感は後から出てきたものという基本に立ち返れば、中国で万年筆が盛んに生産されるのも全く不思議はない。
むしろ、ボールペンを作るのには技術が必要だから(小さな金属球を同じサイズで作らないといけない)、万年筆のほうが圧倒的に作るのが簡単という話にもなるから。
それに今や中国は世界中の製品を作っているので、欧米の筆記具メーカーの製品を作っているということも普通にあるだろうしね。
そこにさらに中国の…圧倒的ともいえる露骨なパクリ上等精神が上乗せされて、中華万年筆は大変カオスに、そしてちょっと面白いことになっていると個人的には思っている。
…パクリのあたりを突っ込んでいくとキリがないんだけどね!
というわけで、中華万年筆の雄・Moonmanが作った万年筆・Moonman M8をレビューしていこうと思う!
Moonmanは割と新興のメーカーなのかな。
Moonmanは上海末匠商貿有限公司のこと。
透明アイドロッパー式のきれいな万年筆、M2が有名だね。
Moonmanはいくつかシリーズがあって、どうやらそれぞれのシリーズで志向しているものが違うみたい。どういう分け方をしているのか、細かくはわからないんだけど…
ちょっとMoonmanの万年筆について、自分が知る限り列挙してみよう。
M2:たぶん一番有名な、透明アイドロッパー パクリ疑惑はあまり聞かない
C1:M2の大型版?かっこいい 何かを元にしたんじゃないかという話は聞いたことあるけど失念
C2:M2のバリエーション
T1:ピストン吸入式 デザインはkawecoとTWSBIから影響受けてる?
T2:スプリング機構吸入式 TWSBI GOに影響を受けたと思われる
S1:アクリル樹脂のバランス型万年筆 この類のデザインは各社から出ている フォルムはシャープ
S3:アクリル樹脂のバランス型万年筆 S1より太い helicoの樹脂を真似ている?
N1:手帳用のショート万年筆 すっきりしたデザイン 元になった製品は思い浮かばない
N3:アクリル樹脂? スリム軸 元になったものは思い浮かばない
M300:太めのアクリル軸 オーソドックスなデザイン?
M600S:言い逃れようがないほどにデュオフォールド。どうあがいてもデュオフォールド。これはアウトじゃないかと思うほどにデュオフォールド。
M800:かっこいい!欲しい!とおもったけど、LeonardoのMomento zeroだった。なんてことだ…。
M6:木製軸 元になった製品は思い浮かばない
M8:形はM6と同じ 金箔や銀箔、螺鈿をちりばめて樹脂で固めた軸 Benu Penから影響を受けているといえるかもしれない
2020年4月現在において、たぶんM800が最新の製品。
うわぁこれかっこいい、ほしい!と思って調べたらパクリが判明してちょっとがっくりきたけども…。
にしても、もとになったLeonardoのMomento zeroは2019年末に出た製品のはずで、それを数か月でコピーしてラインにのっけるのは何とも、すごいね。
T1とT2も新しいはず。少なくとも2019年の製品。
それとM6はちょっと前からあったけど、同型のM8は比較的新しいんじゃないか…と思う。
発売日を調べたわけじゃないから俺の主観だけれどね。
で、やっと本題になるけれども…
レビューを!
字が汚いのは許してほしい!
MoonmanはM6からペン先が新デザインに変わったみたいだね。
「あ、Monteverdeのパクリっすね!」という感じではあるけれども…。
うん、まぁよ…!
で、こちらのM8。
基本的に付属するのは金色のメッキがされたニブなんだけど、自分が買ったM8は銀箔の軸だったからペン先もそろえようと思って別で注文したシルバーのニブに交換した。
ではまず基本情報から。
(長さはおよそ)
キャップ付き長さ:140mm
キャップ無し長さ:124mm
太さ:13mm
キャップの太さ:15mm
重さ:29g
キャップ無し重さ:18g
ニブ:ステンレスニブ サイズは#6 字幅はFだけど国産M相当(0.7mm相当)
結構な太軸で存在感がすごい。
軸が太いと筆圧やペンを掴む力を抑えられる(と思う)ので、太軸は結構好き。
キャップは2回転で外れる。実用上では3回くるくるくる、と回せば外れるような感じ。金具周りがきれいで、テンション上がるね!
個人的に、キャップや首軸を外すときの音が大事だと思っていて、この音がしょぼいとテンション上がらなくて使うのやめちゃうのだけど、これの音はなかなかいいと思う。
キャップが大きいし重いし軸を傷つけちゃいそうなので、基本的にお尻に付けずに書く形になるかな。
あ、ニオイは気にならないよ!中華万年筆でたまにある、石油系のニオイがツンと来て辛い、ということはないよ。無臭だった。
重心はど真ん中よりもほんの少し前。
コンバーターは付属してる。
なんかAliexpressの商品画面には「コンバーターなし」って書いてあったけど、「いや、中華万年筆でコンバーターなしはないでしょ」と思ったらやはりついてた。なんだったんだろう、あれは。
コンバーターはオーソドックスなんだけど、最近の中華万年筆はインク攪拌用の小さい球や、バネのようなものが入ってるのが通例なので、ちょっと古いタイプと言えるかも。
軸にかなりしっかりと密着するので、インク漏れの心配はなさそう。
軸の銀箔はとても綺麗。
金より銀を選んで正解だったかな?これは個人の好みだけどね!
あと螺鈿をちりばめたものもあるんだけど、そちらは売り切れてた。残念。
ただ、よく見ると傷がある。
このペンを買う前に海外レビューをいくつか見ていて、このM8にはしばしば傷や樹脂で埋め切れてない部分があると聞いてたので、それほど落胆はしてなかった。
まぁ、気泡とかね、あるよね。
注意深く爪を立てて確認しないとわからないくらいの傷だし、ぱっと見では探さないとわからないくらいのものだから、気にしない!指でなぞるだけではわからないレベルだ。
3000円だしね!
ただ…「3000円だしね!」ではなかなか済まないのが最初についてたニブ。
…写真だと全く伝わらないけれども、肉眼で見て明らかにわかる勢いで、ニブが曲がっていた。画像で言えば上側の部分が、手前に大きく曲がっていた。
なので、書き味は最悪でガリガリギギギと…それはもうひどいものだった。ひー。
並行してもう一つニブ注文しておいてよかったと心底思ったね!
交換ニブは300円程度。
そちらの状態は最高!全くストレスなくスルスルと書くことができる。
ダメな方のニブユニットをばらしてみた。
Moonmanのニブとペン芯は、外すときにまっすぐ引かないと抜けないので注意。ぐりぐりネジっちゃうとペン芯とニブユニット壊れるから注意してね。
写真では金色か銀色かわからないけれども…これは銀色の、良い方のニブ。
絵画的に言えば、金と銀は無彩色だって知ってた?
MOON
MAN(F)
と書いてあるけど、たぶんこれ、右下の丸の中に書いてあるのがニブの字幅なんだと思う。
ついつい🄬だと思ってしまった。
今回は箱入りを注文しなかったので(箱はすぐ捨てちゃうから)、こちらの素朴なフェルトのペンケースに入って送られてきた。この上に十重二十重に梱包シートにくるまれていたよ。
特に汚れていたりすることなく、無事に届きました。
…しいて言えば、ニブが曲がってたのがわーーって感じだけど、それを見越してスペアを買っておいたのが奏功したみたい。
曲がってるやつは何かしら改造でもしてみようかな!
とにかく!
中華万年筆としては珍しい、オリジナルな(要素の比重が高い)万年筆を手に入れることができて、うれしいね!
いろいろ使っていきたいと思う!
もしこのM8について聞きたいことがあったりしたら、Twitterのほうからお気軽にどうぞー。
(こちらのコメントはあまり見ない可能性があるし、Twitterならすぐ画像送れるので!)