集中できない人の生きる技術としてのバレットジャーナル
バレットジャーナル。
魅惑の響き。
我々はいつも「これがうまくいけば、全てがうまくいく」という幻想の中に生きています。
あと3kg痩せれば、転職すれば、瞑想すれば、壺を買えば、パワーストーンの力を借りれば、眉毛があと5mm位置が変われば、プチ整形すれば、勉強すれば、この資格を取れば、あのグループに入れば、この車を買えば、この情報を得れば、英語ができれば、留学すれば、毎日トイレ掃除をすれば、有名大学に合格すれば、大企業に入社すれば、起業すれば、筋トレすれば…
進研ゼミ的な「一つうまくいけば、良い方へ歯車は廻っていく」というファンタジーをなんとなく信じて生きています。
それは決して非難されるべきことではありません。その幻想を生きる力にして人生に立ち向かうのも、また人間の真の姿と言えましょう。
もちろん、やりすぎ信じすぎは良くありませんが、大いなるきっかけとしての有用性は確かです。
そこで今回は、「バレットジャーナルをやれば、これまで迷走していた手帳術ジプシーから脱却できるのではないか」という話をしていきましょう。
あるいは、「そう思ってバレットジャーナルについて調べているけれど、これは無理っぽい」と挫折してしまっている私のような人間に、「バレットジャーナルというのはこういう物ではないか?」ということを伝えたいのです。
バレットジャーナルはどういう人に向いているのか
バレットジャーナルは、ADHD傾向の人への治療法である。
…というと大げさかもしれません。
しかし少なくとも、バレットジャーナルは「ADHD傾向のある人が、自分の人生を何とかするために編み出した技術」であることは間違いありません。
ライダー・キャロルという人が、「どうすればADHDである自分をうまく操縦できるだろう」と考えた末に行き着いた技術。
バレットジャーナルを取り入れるとき、困ったことがあったら必ずここに立ち戻るといいでしょう。それこそ、バレットジャーナルの最初のページににこれを書いておいてもいいかもしれませんね。
そう、バレットジャーナルは「自分の本当の目標に向き合うための手帳術」では、ないのです。
もちろんそう言った方がキャッチ―なのでそういう宣伝をしているのでしょうが、本質的には「ADHDである自分をどう操縦するか」であり、その結果「目標を達成できた」ということになると思います。
「ダイエットをしたら彼氏ができました」という話を、「彼氏を作るためにはダイエットしないと」と読み替えてしまうとおかしなことになるように、まずバレットジャーナルは自分を操縦するための技術ということを念頭に置きましょう。
バレットジャーナルは「注意力、意志力があちこちに散乱してしまう人向け」の手帳術ということができます。
具体的には、こういう人に向けたものです。
- 熱中できる趣味を見つけた!と、短期間ものすごく集中するけど、すぐに別のものに興味が移る人
- 整理整頓がとにかく苦手な人
- 毎週決まった時間にテレビやコンテンツを見に行けない人
- 会社の机周りは整頓されているのに、自分の部屋はぐちゃぐちゃな人
- 何か月かに一回、一気に徹底的に掃除をする人
- 手順がきちっと決まっていることは上手くやれるけど、応用が苦手な人
- 洗濯はするけど、洗濯物を畳んで棚にしまえない人
- 正しいことを正しい手順でしたいと思っている人
- 完璧じゃないと提出できなくてレポートの期限を過ぎてしまう人
- 先延ばし癖がある人
もちろん、これらに当てはまる人がADHD傾向があるとか、注意力がないというわけではありません。
ADHD云々はひとまず忘れて、自分はどういうタイプなのかをまずは考えましょう。該当する人は多いはずです。
意外に感じるかもしれませんが、「会社や学校では整理整頓がすごくきっちりしているのに、自宅ではてんでダメ」な人は多いです。
それは何も不思議なことではなく、そういう人は(私もそうです)、「片づけるルールがあれば、難なく行える」のです。職場や学校ではルールが決まっていますから、すんなり適応できますが、自宅ではルール作りから行わないといけないため、ぐちゃぐちゃになります。
同じく、自宅のリビングは綺麗に使うのに、部屋がぐちゃぐちゃというタイプもそうですね。
こういった傾向のある人は、例えば市販の優れた手帳を使っても「機能が多すぎて使いきれない」「どうすればいいのか考え込んでしまって一歩も動けない」「使い始めたけど、理想の使い方ができない」となってしまいやすいです。
そしてまた、SNSなどでシェアされる「バレットジャーナル」を見て、尻込みしてしまうというわけです。残念なことに。
これらの特徴が多くあてはまる人は、「方向性を定めるのが苦手」といえるでしょう。逆に言えば、方向と手順とビジョンが定まれば、素晴らしい集中力を発揮することができるわけです。
いわば四方八方に光を放射している電球ではなく、鏡を使って光を一方向に揃えてこそ力を発揮するレーザー光のようなタイプです。細く、長く、強力に届く光です。
バレットジャーナルというのは、自分の注意力、集中力を一方向に揃える方法のこと。
まさにバレット(弾丸)のように、ですね。
目標が達成できるというのは、副次的な効果でしかありません。
最大の効果は、自分の集中力を操縦すること。
これを勘違いしてしまうと、「期待したものではなかった」「面倒なだけだった」「意味が分からない」というように、ミスマッチになってしまいます。
ですからまず、「バレットジャーナルは注意力をそろえるための技術である」ことを強く認識しておいてください。
バレットジャーナルの罠
「注意力を揃えるのが苦手な人」向けのはずのバレットジャーナルですが、SNSなどでバレットジャーナルを検索すると、目が回るような「作例」が洪水のように脳の中に流れ込んできます。
(恐ろしい光景!)
もちろん、頑張ってオシャレな見た目のバレットジャーナルを作るのは全く問題ありません。純粋に素晴らしいことです。
しかし、それらがあまりにも大量に目に入るがゆえに、「こうじゃないとバレットジャーナルではないのではないか」と思ってしまい、本来バレットジャーナルに最適であった人を遠ざけてしまっているのはとても残念なことです。
ですから、一度、それらのSNSは忘れ、基本に立ち戻りましょう。
バレットジャーナルは、私のための技術なのだ、と言い聞かせてください。
そしてやはり、見るべきなのはライダーさんが解説しているこの動画です。
本当にこれだけでいいのです。
落ち着いたライダーさんのテンションのように、静かに淡々とやっていいのです。
ですから、まずはオシャレなバレットジャーナルのことは忘れて、まずは基本をやるのだ、基本以外はやらなくていいのだ、と考えてください。
バレットジャーナルのそれぞれの項目の意味
先ほど動画でライダーさんが解説していましたが、私なりの理解を書いていきますね。
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様々な場所で、様々な形で得られる情報を、私たちはメモという形で残します。
しかし私たちは、それらのメモの断片を整理するのが苦手です。
ですから、まずシンプルなルールを決めて、情報を整理しやすくしましょう。
必要なものはノートとペンと定規だけです。
これは「選択肢を広げず、一転に集中するため」です。「あれもやっていいよ、これもいいよ、こんなやり方もあるよ」では、私たちは動けなくなってしまいます。
ですから、決めます。
方眼ドットの入ったノートと、書きやすいペンと、定規だけを用意しましょう。
まずは、ページ番号を書いていきます。表紙をめくり、最初の白いページを1とします。あとはひたすら書いていきます。案外楽しいものです。
書き終わったら、最初の見開きにインデックスページを作ります。インデックスが増えることを予想して、2ページくらいとっておきましょう。
なぜページ番号を書くのか、インデックスページなんか作るのかとお考えでしょう。これは、「どこに何を書いたのか覚えておく必要をなくすため」「書きっぱなしにせず、後から見直せるようにするため」です。
バレットジャーナルは、何度も見直すのが特徴です。いろんなページを前後するのがこの技術です。何度も直すことにより、脳に情報が刻み込まれていくわけです。
未知の英単語を一回で覚えられる人は少ないです。それと同じです。
次に、フューチャーログを作ります。
ページを3分割して、1ページにつき3か月分、全部で1年分作ります。
これは、その月の予定を書き入れる場所です。「来月、アレをやらなきゃ」とずっと覚えておくことはできません。だからここに書いて忘れるのです。月初になったらここを見直して、「そういえばアレがあったな」と思い出すのです。
バレットジャーナルを始めたときは、おそらくここに書くことは少ないと思います。
このフューチャーログを書いたページ番号を、インデックスページに書いておきましょう。
さて、次からが本番になります。
マンスリーページを作ります。
とはいえ、作るのは簡単です。縦に日付と曜日を入れるだけです。1ページに収まらなければ、次のページにまたがってもかまいません。空いた場所に「今月のタスク」を書きましょう。フューチャーログに書いたことを、ここに書くわけです。
書けたら、それで終わりです。あっさり終わりますね。
修飾したいなら、しましょう。個人的には、一切装飾せずに始めるのが脳の力を無駄にしなくてお勧めです。したくなったらするくらいで構いません。今月は装飾しても、来月はしないかもしれませんし。それでいいのです。
次に、少し考えましょう。
コレクションです。
フューチャーログとかマンスリーとかコレクションとか、直感的にわかりにくいものですが…。もっと簡単に言い換えていいもいいですね。予定とか、今月の予定とか。
コレクションというのは、「専用ページ」のことです。そのページには、特定のテーマのものしか書き込みません。
例えば「ダイエット」。
毎日の体重の増減はマンスリーに書けばいいのですが、それ以外のダイエット情報、例えば何を食べるといいとか、「この本のこの文章がためになる」とか。日記の中に埋もれてほしくないものは、全て専用ページを作ります。
数ページにわたって考えごとをしたいときも、sねにょうページ扱いです。
マインドマップもそうです。
そういったコレクション(専用ページ)は、作りたくなるタイミングがあらかじめわかるわけではありません。
ですから、あらかじめこのくらいの分量のページを確保しておく…という風にはできません。
日々の記録の中に突然専用ページが現れることになるのですが、その時にインデックスが役立つわけです。
「ダイエット 12~15、34~35、166~170」みたいにインデックスに書かれることになります。
最初に作りたい専用ページがあれば、ここで作っておきましょう。
特になければ、いよいよデイリーページに移ります。
デイリーページも、全く難しくはありません。
今日の日付を書いて、それで準備はおしまいです。
あとは、
- 今日やること(ToDo)
- 一行日記
- 思いついたこと
- 明日やること
- 来月やること
- うれしかったこと
- ムカついたこと
- 知り合った人の電話番号
など、その日に思いついたこと、得た情報を箇条書きにしていくだけです。
順番は関係ないです。その時に思ったことを、短く的確に書いていきます。
日記を書きたいときはここに長く書いてもいいでしょう。
どんどん書きます。
そして、一日の終わりに、明日やるタスクは明日(デイリー)に、来週の予定は来月のページ(マンスリー)に、来月の予定はフューチャーに、連絡先アドレスなど専用ページ向きのものは専用ページに、書き写すだけです。
こうやって書き写せば、記憶が定着しやすくなり、忘れにくくなります。
バレットジャーナルはそのための技術なのですから。
このデイリーログを管理する「キー」という考え方がバレットジャーナルの特徴なのですが…個人的にはキーにこだわり過ぎると動けなくなる印象があります。なので、キーを設定するのは慣れてきてからでもいいと思います。「キー」については、他に解説しているサイトがたくさんあるので、そちらを見てくださいね。
デイリーも、これだけです。
とても簡単で、構えることなどないでしょう?
以上、これだけです。
もし使っていくうえで慣れてきたり、別の機能が欲しくなってきたら、適宜付け加えていくとよいですね。
でもくれぐれも、バレットジャーナルの基本は忘れないで。
むしろバレットジャーナルは、「不要なもの、不要なストレスを削除していく」のが特徴です。手帳に「アドレスラン」があるとそれだけでなんかストレスになる、書かなきゃいけない気がしてしまう、という人向けのものです。
インデックスページが面倒なら、作らなくてもいいです。
フューチャーログはあったほうがいいと思うのですが、いらないと思うなら書かなくてもいいです。
来月の予定などはスマホのほうが楽なのは間違いないのですが…
「ツールが増える」ことは混乱の原因になります。
もちろん、並行して使える人は大いに使ってほしいのですが、注意力を収束させるのがとにかく大変な人は、バレットジャーナル一本にした方がストレスは減ります。
繰り返しますが、バレットジャーナルはそのための技術なので。
バレットジャーナルは、最低限のルールを提供します。そのルールは自分の注意力を一点に集めるためのものです。複雑なルールにしてはいけません。
最初のうちは、手帳を書くのに失敗することもあるでしょう。でも手帳は誰に見せるものでもないのです。
これはリハビリとも言えましょう。
リハビリ中は、多少みっともなくてもなんてことはありません。その姿を見ているのは、あなた自身と、優しく見守ってくれる訓練士さんだけです。馬鹿にする人はいません。応援する人だけがいるのです。
当然ながらライダーさんは応援してくれるはずです。どんな汚い手帳だって問題ありません。すべては注意力をまとめるためです。そのためなら多少の失敗もなんのそのです。
そしてもちろん、私も応援しています。
同志ですからね!
何を置いても一番重要なのは、注意力を操縦すること、その一点なのですから!
一応、公式本はでているのですが…
「手帳を始めるために勉強が必要」というような意識を植え付けるのは得策ではないので、上記のライダーさんの動画一本で始めたほうがいいと思います。
そのうえで、気になった人が読む、くらいの立ち位置でいいんじゃないかな、と。
5,4,3,2,1エクササイズとか、面白いなと思うこともありましたしね!