ヴァイキングのように角を
金属の針を作っていたちょうどそのタイミングで、友人から
「水牛の角のかんざしをなくしてしまったので、かんざしを作ってほしい!」
と頼まれた。
…角!
ちょうど「かんざしにも使えるかも」と針を作りながら思っていたところだし、何より今、俺の中で角は一大ブームとなっている。
これは…何か運命のささやきが…聞こえてきた感があるな!
しかし鹿羊ではなく、ついに水牛が登場した。
さすがに水牛は日本にはいない。なので、なかなか入手には苦労しそう。これはやりがいがあるな…!またしても、RPGのごとくドロップアイテムを探す日々が来るというのか…!
友人に「水牛の角を入手するまで少しの時間をくれ!」と返信。「いや別に水牛じゃなくても…」というかぼそい声は俺に届かなかったことにして、俺は、俺のために水牛の角を欲したわけだよ。
しかし水牛の角はどうすればいいのだろう。
こればっかりは「水牛の角が道端に落ちてたらとっておいてくれ」と頼めるものではない。さしものバイク野郎(鹿の角を拾ってきてくれた男)でも、水牛の角が落ちてるところに遠征にはいかないはずだ。
そういう時はオークションやメルカリを見てみる。きっとだれかが売りに出しているはず。
…長い前置きのわりにあっさりと見つかったんだけど、いかんせんお高い。いや、水牛さんを思えば高い安い言えないわけだけども、俺もひとつの生物として、自身の生存を脅かすほどの額は出せないからな…!
まぁ3000円くらいだったんだけどね。
しかしオークション等では取引と発送に時間がかかる。しかも実物を見れないので、どうにもなかなか、しっくりこない。ここがオンラインの痛し痒しな部分だぜ。
どうしようかなーと思いながら、リサイクルショップに立ち寄ると…
…あった!
俺の求めるものが…!
あっさりと!
もはや俺に見えるのはオブジェでなく素材。
頼むから研磨しすぎていないでくれと祈りつつ、後ろのちょっと(というかだいぶ)加工の甘い部分から角の中を覗き、ある程度の厚みが残されていることを確認する。
これならいける!
というか、リサイクルショップは素材結構あるな…!
この角の下においてある囲碁板も、削れば木材として使えそうだし。
古い囲碁板は桂の木の一枚板で作られているので、今や普通に貴重な木材だぜ。リサイクルショップでたたき売られてたらとりあえず確保しておきたいくらい。柔らかいから彫り物にも使えるよ。どうしてもちょっと古いイメージはあるけどね。
何か…1000万パワー的なものを感じる威容だが!
さてこれを加工するためにはいろいろと道具が必要なので、手持ちの、いかにも日曜大工ですー的な道具たちではやや荷が重い。
そこで、今週末あたりにお世話になっている工房を訪ねてアドバイスをもらい…あわよくばちょっと加工させてもらおうかな…などと野心を燃やしつつ…!
しかし、角である。
角といえばヴァイキングだよな。ノールビンドニングでおなじみの。やや強引だが、気にしてはいけない!
ヴァイキングのイメージとしては角のついたとんがり兜の荒くれものというイメージだし、俺も大体そのイメージでノールビンドニングをやっている。荒くれものならこのくらい大丈夫だろ!?という精神で行う編み物はギャップが楽しい。
でも実際のところ、ヴァイキングは角の着いた兜を被っていたわけではない。
「ヴァイキングは角のついた兜を被っている」
というのは、
「NINJAは分身したり、カエルに乗ったり、赤いマスクをつけてたり、睨み付けただけで相手を倒せる」
みたいな、後世によるイメージづけの結果だったりする。およそ19世紀の絵画からヴァイキングに角がつけたされ、20世紀初頭でそのイメージが定着し、日本においては「小さなバイキング ビッケ」が果たした役割が大きいらしい。俺は見たことないんだけどね。
それにヴァイキングは実用を重んずる民(だと思っている)ので、彼らがそんな無意味なものを付けるのか?という感じもするし。
ヴァイキングを描いたマンガ「ヴィンランド・サガ」の登場人物も、角兜は被ってなかったように思う。うろ覚えだけど。トルケル様のファンです。
で、実際にヴァイキングたちがどういう装備をしていたのかという話だけど、これはお墓の遺跡の中から見つかった副葬品から明らかになっている。
有名なのはヴェンデル船葬墓群。
こちらは英語版のWikipediaだけれども(日本語版にはそもそも項目がない)、兜の写真が載ってるのでイメージはつくと思う。もっとも、この遺跡はヴァイキング時代の2世紀くらい前の「ヴェンデル時代」のものなので、ヴァイキング時代となるともう少し変化はしたかもしれない。
ヴェンデル船葬墓群については、こんな論文があって勉強になった!
NAGOYA Repository: ヴェンデルとヴァルスイェーデ―スウェーデン・ウップランド地方の二大船葬墓群
そういうわけで、「角を使うこと」、そして「ヴァイキング的なクラフトをするということ」に仄かな関係性を見出し、またちょっとテンションが上がったというわけさ。
…で、ね。
調べているうちに、どうも何か…既視感を感じていたのだけれども!
その正体がわかった!
お姉さんだ!
俺の愛する…いや変な意味ではなくな。
ノールビンドニングのお姉さんに、俺はすでに「ヴェンデル」について教わっていたわけだよ!
https://www.youtube.com/watch?v=Z75fzywSNs8
Vendel Stitch - Neulakinnas, Nalbinding
ヴェンデルステッチという形で!
すごく納得した!
それはそうだ!
だって、「日用品も含めた副葬品がたくさんあった」ということは、当然のこととして!ノールビンドニングで作った服なんかもあったはずなわけだよ!
そしてそこで見つかったステッチには、その場所の名前がつけられる!
だから、ヴェンデルステッチはヴェンデル船葬墓群から見つかったステッチというわけだな!?
毛糸のど真ん中を通すという角を生やしたヴァイキング的イメージそのままのステッチ!
それでも出来上がった編み目はとても綺麗。
おそらく…ヴァイキングの歴史を勉強していくと、あちこちでノールビンドニングのステッチ名が登場することになるのだと思う。
ノールビンドニングのステッチ名は地名から取られる慣習。ステッチが見つかるということは、そこに文化の残滓があったということだから。
楽しくなってくるね!
トルケル様の雄姿について夜を徹して語りあいたい。