時を旅する木簡ノートを作る。 -木簡風トラベラーズノート 激光篇-
それは…人生を旅する者の傍らにあり、その旅路を見守るノートである…。
旅人はその記憶をこの一冊のノートに託し、次なる旅へと思いを馳せるのである…。
と、いう感じに…黄昏れたくなるのがトラベラーズノートだ!
手帳界隈ではなかなかに有名だ!大きめの文具店にはだいたい置いてあるな!
厚めの皮を二つに折り、そこにリフィルを挟むだけのシンプルな手帳。ステッカーをペタペタ貼った旅行鞄のように、どんどん自分流にカスタマイズしていくことを推奨しているノートだ。使い方は自分次第。
「カスタマイズ」とか「経年変化」とか「こなれ感」というキーワードにグッとくる人にはたまらないノート。それがトラベラーズノートである。
とにかくシンプルなので、リフィルを自作することもできるし、アイディア次第でいかようにも使えるのがこのノート。
とはいえ、そんなに大幅にカスタマイズをせずに数年使ってきたのだけれど…
もういい加減、大幅に改造してみたくなってきた!
しかし…一体どうすればいいのか。
絵心があるわけでもデザイン的センスがあるわけでもない俺に、何ができるというのか?
閃光の彫刻機
ロダンのごとく悩み続けて数か月。ついに俺の脳に閃光が奔る。
これだ!これを使えば…行けるはずだ!
それは…
激 光 彫 刻 机 !
もう一度言いたい。
激 光 彫 刻 机 !
…伝わらないだろうか?
激 光 彫 刻 机 !
簡単に言えばレーザー彫刻である。
中国語では…レーザーは「激光」なのだな…!
全く伝わらないけど、使いたくて仕方がない単語だ! 激光彫刻机!
レーザー彫刻機というのは、文字通りレーザーを使って木材や革の表面を焼いて模様を彫れるという物だ。業務用となると銀行の絶大な融資が必要なほどに高くゴツくデカく重いものになるけれど、3Dプリンタ同様に個人で気軽に使える物が売られている。
それを今回、ゲットしたというわけ。
木材の徒たる俺にとっては、この激光はまさに完璧。完全な相性だ。
とはいえ、1万円~2万円で買える範囲のレーザー彫刻機はどれも中国製となる。
まぁ、日本のメーカーだってその内実は中国製だったりするわけだし、別にもう今更中国製だからどうのこうのということはないのだけど…。すこしばかりは「大丈夫だろうか?」と不安に思うもの。
しかし思い切って買ってみることにしたわけだよ!
届いた激光彫刻机を見て、いい意味で驚いた。割としっかりしている!
マニュアルも中国語だけでなく日本語もあるし、内容も詳しい。ちょっと変だな、と思う日本語はあるけど、問題ないレベル。コンセントも日本対応。
特に設定やインストールが難しいこともなく、届いてから30分後には初めての激光を体験することができた。
というわけで、さっそくサンプル画像をサンプル木片に彫刻してみよう!
…しかし…サンプル画像が逆にすがすがしい感じだ…。
アバーーーーーッ!
…付属のシールドを取り付けないと目が死ぬ。
これがポケモンショックか…!これは危険だ!みんなはちゃんとシールドを付けような!
彫刻してる間は覗き込んじゃだめだぞ!
3時間くらい激光を楽しみ、このレーザー彫刻機はイケるという確信を持った!
ただ、いつレーザー部分の寿命が来るのかわからないので、業務的には使えないような感じ。どのくらいぶん回せば壊れるのか、それはまだ未知数だからね。
さて、ではこのレーザー彫刻機で何をしよう!
トラベラーズノートに直接刻印をしようか?
うん、やはりそれだ!
いい感じの模様を考えて…理想のトラベラーズノートを手に入れようじゃないか!
こう…妖しげかつテンションの上がる…何かを!
…いや待てッ!
本当にそれでいいのか…?
レーザー彫刻機で革を彫って、それで完成にして、お前はそれで満足するのか…?
わずか数分でインスタントに手に入る手帳…それにお前は人生の旅を預けるというのか…?
それはせっかく手に入れた新たな武器・激光の魅力を引き出しているといえるのか…?
いや…別にインスタントで構わないが!?
そう自分を納得させようとした時、脳の中でマリーがささやく。
「激光で木簡彫ればいいじゃない!木簡!木簡よ!生涯の夢であった木簡を今!手に入れるのよ!木簡よ!手帳?そんなものより木簡!ハイ木簡!決定!木簡!木簡!!」
そういうわけで、俺は木簡を作ることになった。
悠久の木簡
木簡。
そう、木簡。
もっかん。
紙が発明されるまで、アジアの人々はこの木簡にすべてを記してきた。時には文書、時には墓、あるいは名刺、また政治の場では聖徳太子が持ってるアレのように、木簡の影響は幅広い。
木の板を細かく割って紐でつないだ巻物のようなアレだ。
小学校で三国志にハマって以来、俺は木簡にあこがれ続けてきた。
今こそ木簡を手にするとき…!
とはいえ、木簡自体を作るのはとても簡単だ。
適当な長さに木を切り、表面を処理して穴をあけるだけ。
今まで木簡に手が出せなかったのは、「木簡に字を書けるほど俺は字が上手くない」からだ!
せっかくの木簡にヘロヘロな字は書くことはできない…!
そこで救世主たる激光が俺の代わりに美しい文字を彫ってくれるというわけだよ!
簡単!便利!
…でも実はこのレーザー彫刻の段階でものすごい苦労をしたんだけど(字が曲がったり詰まったりしているのがわかると思う)…それはそれとして!
できました!
木簡!!
木簡に彫ったのは、俺が愛する四書五経の筆頭・易経の有名な一説。それを唐の時代の篆書体で彫ってみた。
本当は先秦時代の篆書体が良かったんだけど、それでは文字が欠けてしまうので。
表面がギラギラしてるのはカメラの具合ではなく、そういう木材を使ったから!北海道産のカバノキだよ!すごい光るよ!一般には出回らない銘木だよ!ちょっと自慢!
ただ、カバノキは含有油分が多いので…彫刻した後しばらくはベタベタしちゃったけどね。
木簡のサイズは、
幅1.6cm×長さ22cm×厚み0.3 これを16枚繋いだもの。
所要時間は…結構長かった。木簡本体を作るのは2時間くらいだったけど、なんせ彫刻に苦労したので…トータルで12時間くらいかかってるかもしれない。でもその分、とても良い仕上がりになりました!
というか、木簡これ自体がとても触り心地が良いので…いつかちゃんとした木簡を作って手元に置いておきたいと思ってる。
トラベラーズノートに木簡を合わせる
出来上がった木簡をトラベラーズノートにかぶせてみる。
…控えめに言って最高じゃないかこれ!?
ここまでしっくりくるとは思わなかった!分厚くなりすぎるかな、と思ったけど、むしろこの厚さがいい!木簡っぽい!わーすごい!これだよこれ!
あとは木簡をトラベラーズノートに括りつけるだけだ!
ヴァイキング精神で!テキトーに!
やるぞ!
しかしトラベラーズノートを木簡に合わせるにあたって、ネックになるのがこのパーツ。
これはトラベラーズノートの上下の識別に大切なパーツなんだけど、今回はこれが邪魔になってしまう。
というわけで、さっそく切除。
どうしても後から欲しくなったら、このパーツだけでも買えるからね!
雑に扱ってもよいのがトラベラーズノートであるので、大丈夫だ!
切った後に気が付いたんだけど、実はこのパーツ、リフィルを安定させる役割を持っていたらしい。このパーツがないと、ノートの背の革がくたっとなってしまう。
んー。
何かで代用ができないかな。ノートの背でなく、内側から支えるような…。穴の開いた木片とか?
作ろうか?
と思った時。
目に留まったのはノールビンドニングの針!
これでいける!
なんか…よくない!?
ノールビンドニングがこのノートの背骨を支えている感じが!
あとはゴムと糸と力技で各パーツをくっつけていく!
雑だが!
むしろ雑でもわかりやすく作ることで、のちのメンテナンス性が上がる気がする。
接着剤や特殊な工具は使わず、ひたすら糸で縛る。
木簡である以上は必ずいつか破損するので、そのときに簡単に修理できるようにしたい。
そして出来上がった!
悠久の時を旅するトラベラーズノートが…!
少年の頃の夢が叶った…!
感無量だね…!
しかもこれ、持った感じがすごくいい!抱いて寝たいくらいだね…!
木で作られた木簡だけど、机にポンと置くときに「ガチャ!」という音はしない。
木簡を繋いでいる紐と、巻いた革ひもによって木の部分は直接机に触れないのだ。
木と革とカバノキの油の香りがする。
長かった手帳難民の終着点がここに現れた感じだ。
しかもこれ、分厚いのでそのまま立てておくことも可能。
無駄に立てておくことで圧倒的なドヤ顔力も備えているというわけだ…!
木簡部分がめちゃくちゃしっかりしているので、机に広げたときも違和感がない。
孔丘先生はこの易経の書かれた木簡を、3度紐が擦り切れるまで熟読したらしい。
韋編三絶、俺もそのくらいまでこのノートを使っていきたいと思う!