自作のノートを作る - 木工ボンドの神 -

人は何かを求めた瞬間、ゴールのない終わらぬ旅路を歩くことになる生き物である。

アダムとイブが楽園を去ってから、常に人は「The one(理想の何か)」を探しながらも、決してそこに到達しえない苦しみを抱える存在なのだ…。

 

…かっこよくいってみたけれども、要するに、「自分にぴったりの〇〇が欲しいなぁ」と思うから、市販のものでは微妙に満足できなくなっちゃうよね!と言う話だよ!

ファッションにしても、ブランド品にしても、家電も男女関係も家も仕事もみんなそう。

どこかで折り合いをつけないと、際限なく「もっといいもの」を求めてしまうのが楽園を追放された俺たちの宿痾といえるのかもしれない。

 

俺の場合は、メモ帳やノートにこの問題があった。

万年筆でノートに書くのが好きなんだけど、万年筆のインクがにじまない、裏抜けしないノートと言うと結構限られており(そして高価)、さらにその中で自分の好みに合うデザイン、大きさのものを…となるとはっきり言って選択肢が非常に狭い。

かといって、じゃあ俺にベストマッチするノートを出してくれ、とも言えないわけだし。

 

そういうわけであれば…

これはもう作るしかないな…!

そう決意したわけだよ。

 

優先順位は…

  • 俺っぽい
  • 万年筆で裏抜け、にじみがないこと
  • 使っててテンション上がる
  • めっちゃ分厚い

そんなノートを目指して、作ってみることにした!

 

1.ひたすら折る

まず、ノートの神を選ぶ。

すまん、紙ね。

これはコピー用紙でも画用紙でもなんでもいいんだけど、今回は「万年筆がにじまない裏抜けしない」が大事なので、その条件に合う紙を用意した。

「エトランジェ・ディ・コスタリカ」のアイボリー色の中厚口、A5サイズ。

大体300円くらい。

これを、半分に折る!

全部を…ひたすらにな…!

とはいえそんなに難しいことじゃないので、そこそこの時間で終わる。

ブックバインダーの皆さんは、半分に折る治具や紙をなでつけるヘラのようなものを利用しているけれども、今回俺は羊の角で行った。未加工の。羊の角そのまんまの。割とよかったよ…!

それで、全て折ったら、6枚をひとセットにして重ねていく。

f:id:yajul_q:20190908114146j:plain

重ねたら、C型クランプに適当な板を当てて、ぎゅっと圧力をかけて1日放置!

C型クランプも適当な板も、100均に売ってるから大丈夫。クランプにはそんなにパワーはいらないから、強く締めすぎなくてOK。

 

f:id:yajul_q:20190908114151j:plain

こんな感じ。

そろってて美しい。

もうすでに達成感があるな…!

 

小冊子を連結して1冊にする

糸を通す穴をあける

 

しっかりと折り目が付いたら、各小冊子を糸綴じしていこう。

 

f:id:yajul_q:20190908114159j:plain

まず、クランプをちょっとずらす。ここまでずらさないほうがいいと思う。

この時、横にずれると困るので、慎重に。

全工程の中で、ここが一番精度が求められる。

普段はテキトーなノールビンドニング精神の俺も、ここだけは集中したほどだからね…!

 

f:id:yajul_q:20190908114815j:plain

次に、糸を通す場所を決める。ここは適当に決めちゃってOK。

まぁでも、ちゃんと定規では測っているよ!

 

f:id:yajul_q:20190908114821j:plain

そして、印をつけたところを…

やすりの角でゴリゴリと削る!!

今回は俺はやすりでやったのだが…結局削りが足りず、後で苦労したので、次やるときはヤスリなどという甘い気持ちは捨てて、最初からノコギリである程度深く切れ込みを入れようと思う!

結構深くした方がいい。

これは何をやっているのかと言うと、紙の折り目に穴をあけているんだよね。

だから削りが浅いと、重なった一番内側の紙に穴が開かないということになるのだ。

どうせ背中だから、思い切って深く切れ目を入れていこう。

 

f:id:yajul_q:20190908114826j:plain

こんな感じ。

でもこれだと、6枚重ねでは浅かった!3枚重ね、4枚重ねならこのくらいで十分かと思うけどね!

 

コプティックステッチで綴じる

ここで、各小冊子を連結していくんだけど…。

連結方法の説明が文字では難しいので、こちらの動画を見てほしい!

 

youtu.be5:40くらいから、糸綴じの説明をしてくれている。

コプティックステッチで!

 

…あれ、このお姉さんの動画見ればこの記事は必要ないんじゃないのか…?

 

f:id:yajul_q:20190908115512j:plain

 

若干のむなしさを覚えつつ、えー、こんな感じに!

このタイミングで中表紙も付けた。

世の中のあらゆるものに名前がついているように、紙にも種類と、個別の名前がついているのだよ!

今回使ったのは、「ミューズコットン」の赤。1959年に発売された横縞が美しい厚紙。

紙に詳しくなると…市販の本の中表紙とか「あ、これ〇〇だ」ってわかるようになって楽しい(?)ぞ!

 

失態

ここで恒例の。

「もっとこうすれば美しくなるんじゃあないのか…?」が発動!

ノートの小口がちょっとがたがた(にみえた)ので、小口をカッターで切りそろえてみようとしたんだけど…。

 

f:id:yajul_q:20190908120252j:plain

そりゃこの厚さだし!

へにょへにょにもなるよな!



…大失態である。

もうだめだ…。

 

さながらメシマズさんのように、「素人目線の無駄なアレンジを施した結果、大変なことになる」を地で行く大変な失敗を。

もうこれは…

俺には生きている価値がないんじゃないのか…?

 

…よし、死のう!

 

そう決意してカレーを食べつつ、Twitterとかで愚痴をこぼしていたという経緯になりますね…。皆さんの暖かい言葉に感謝。

その中で一番「なるほど」と思ったのは、「完璧なものには魔が宿る」という言葉で、昔の職人さんは完璧なものができてしまったらあえてどこかに傷や不出来なものを入れ込むことで、その作品に魔が宿ることを防いだという話。

「なるほど…つまり俺は意図せずに魔除けを施していた可能性が…?」

という謎の自己肯定感に満ち溢れてきたので、今後作品の失敗に悩んでいる人がいたら積極的に使っていきたい!

この考え方って易経にも通ずるよね。完成してしまったものは落ちるだけなので、それは完璧ではない、っていうね。と言うか、たぶん昔の職人さんたちは易経儒教)的なマインドが浸透していたんだとは思う。

日光東照宮もそのマインドで作られているらしいしね。

 

ちなみにこの時食べていたカレーもそんなにおいしくはなかった。

ガラムマサラとトマトで煮ただけのカレーだからな…!

しかしまさに今日、そのがっかりカレーに油を投入すると非常においしいことが判明してしまった…。

カレーが美味しいのは…やはり油の味だったということなのか…!

 

小口を削る

f:id:yajul_q:20190908121546j:plain

とはいえ、ちょっと魔除けにしても度が過ぎて汚く、貧乏神的なモノが寄ってきそうながっかり加減だったので、ある程度は整えることに。

小口を木でがっつり挟んで、ベルトサンダーで木もろとも削りまくる!

ノート作りに木工用のパワーツールが平然と登場してくるのが俺っぽいといえるかもしれん!

 

f:id:yajul_q:20190908121550j:plain

貧乏神がある程度スルーしてくれそうなくらいには整ったので、とりあえずこの辺で良しとする!

 

表紙と本の背の処理

魔除けに時間はかかったが、ここで表紙を取り付ける準備をする!

 

革の表紙に穴をあけ、糸を通す

ちょうどいただいたレザークラフトセットの習熟も兼ねて、表紙は本革で作ることに!

レザークラフト用の菱目打ちで穴をあけ、そこに針で糸を通していく。

 

f:id:yajul_q:20190908122021j:plain

糸をきつく締めてはいけないので、麻糸を通して締まり過ぎないように。

 

f:id:yajul_q:20190908122025j:plain

ノールビンドニングっぽい。

 

f:id:yajul_q:20190908122029j:plain

最後までとおしたら、麻糸を抜いておしまい!

 

f:id:yajul_q:20190908122543j:plain


表紙をつけるための穴もあけたんだけど、ちょっとこれは失敗だった…かもしれない。

ま、魔除けだから…!

 

並行して本の背中の接着

表紙の処理と並行して、せっかくだし本の背中を接着してみた!

糸綴じ製本なら接着は損にいらないんだけど、ちょっとぐらつく感触があったので、接着してみることに。

なにせこれが初めての製本だし、後学のためにとりあえずやってみよう!とね!

 

まず、背中を普通の木工ボンドをぬって接着する。

f:id:yajul_q:20190908122656j:plain

木工ボンドは乾くと透明になるので、結構きれいな仕上がり。

あ、この段階で表紙をつける糸を通しているよ。

 

このままでもいいっちゃいいんだけど…どうせだからもっと接着剤モリモリでいこうぜ!

という俺の心の中も悪魔がささやき始めたので…ここでホットボンドを投入する!

 

f:id:yajul_q:20190908123110j:plain

ダイソーとかで売ってるアレ。

本体200円、接着剤100円の計300円で買える!性能は必要十分だぜ。

これは熱を加えると溶けてくっつくタイプで、冷えるとゴムのようなムニムニ感のあるボンド。熱が加わる部分には使えないけど、ノートなら問題なし!

使い始める前に余熱時間が必要なので、すぐには使えないけどね。

 

そんなホットボンドを、大量に盛っていく…!

 

f:id:yajul_q:20190908123300j:plain

 

…これは…

……汚い……

 

貧乏神が相当フィーバーするレベルの汚さじゃないかなこれ!

お、俺のテクニックはここが限界だというのか…!

アイロンであっため直すにしても、アイロンにくっつくしな…。

 

しかし大丈夫だ。

俺には大宇宙の法則が味方に付いている。

 

それは…

 

表面張力…!

 

f:id:yajul_q:20190908123555j:plain

 

魔すら恐れるホットボンドのがっかり表面を、木工ボンドでコーティングする…!

木工ボンドの美しい表面張力によって、(比較的)自然な曲面になろうというものだよ!

やはり最後は木工ボンドか…!

俺には木工ボンドの神がついているようだな…!

 

f:id:yajul_q:20190908123814j:plain

 

神、いわゆるゴッドである木工ボンドの加護を得て、(比較的)きれいに処理することができた。

その分ボンド層がめっちゃ厚いけどな!

多少ノートが開きにくくはなったけれども!

それはそれで俺っぽい感じでいんじゃないか。

 

背表紙をつける

ノールビンドニングで!

そう!

これがやりたかったんだよ!

クラフトの中でワンポイントでノールビンドニングを使いたい。

それが今回の隠れたミッション。

f:id:yajul_q:20190908124149j:plain

 

表表紙と裏表紙を、ノールビンドニングで編みつけていくよ!

やるぞー!

 

f:id:yajul_q:20190908124217j:plain

 

が…失敗!!!

このポジションって上手く編めないよね!表紙が邪魔で!

しかも針ほっそいし!

無理!

も、もうちょっと頭を使おうぜ!

 

f:id:yajul_q:20190908124330j:plain

というわけで、別で編んだノールビンドニングを用意して、それを針と糸で縫い付けていくことに。

うむ、これが知性ある人間の行いと言うものだな…!

今回のクラフトは…全体的に俺の知性不足のような気がするぜ…!

 

 

f:id:yajul_q:20190908124836j:plain

このくらいの知性が必要だな…!

まずはプロテインか…!

(個人的に、スーパーフェニックスにはちゃんと勝利してほしかった)

 

 

…知性は磨き続けるとして、背表紙を縫い付けるとこういう感じに!

f:id:yajul_q:20190908124745j:plain

ダーラナステッチ!

二色で編んだ時の感じが本当に最高なんだよ!素晴らしいね…!

 

f:id:yajul_q:20190908125032j:plain

後は、ここを

f:id:yajul_q:20190908125037j:plain

ホットボンドでくっつけて、

f:id:yajul_q:20190908125043j:plain

背表紙の中に通して、テキトーに結んで、

 

f:id:yajul_q:20190908125155j:plain

 

 完 成 !

 

心の中の魔と、貧乏神と、溢れる知性(のなさ)が俺を苦しめたが…

最終的にはそれなりの形になってよかったー!

ノートは作れる!

ということが分かったのが何よりの収穫だね!

 

これで「自分の最適なノート」を求めてゾンビのごとく文具屋さんを徘徊することもなくなったってわけだ!

そのうちにハードカバーとか、作ってみたいよね。

 

今回のノートもどんどんカスタマイズしていこうと思っているよ!

魔には気を付けつつね…!

 

ということで!

ノート、みんなも作ってみてはいかがでしょう!

俺の説明よりも、動画のお姉さんを参考にするといいと思うよ…!