ノールビンドニング - クロトーのようにつないで -
ノールビンドニング、この素晴らしい技法を学んでいくうえで、俺には一つの懸念があった。
それは、「何度も何度も毛糸をちぎってつなぐ作業をする必要がある」ということ。
ノールビンドニングは縫い物に近い編み物なので、通常のニッティングのように毛糸が続く限り無限に編めるというものではない。かっこよく言えば、己の手で有限を選択せねばならない。
毛糸を短く切れば縫いやすいけど、すぐになくなってしまう。
かといって毛糸を長く長く切ると、途中で絡まるという大変なストレスを抱えることになる。
このディレンマ。
もっとも、これがあるからこそ一区切りがつきやすいということもあるけれど。
「このくらいの長さの毛糸なら5分だな…」みたいに感覚でわかってくるので、カップラーメンのタイマーとしても使うことが可能だし。煮込み料理のタイマーとしても使えるかもしれないな…!
しかし、やはり毛糸問題は付きまとう。
それを解決すべく毛糸ちぎり機を作ってみたのだけど、彼は儚くも散ってしまった。
毛糸ちぎり機の悲劇は悲劇として受け止めるとして、問題はまだ、もう一つ存在する。
毛糸をつなぐとき、手が結構、痛いんだよね…!
北村先生の教えの一つ「毛糸をつなぐときは火が出るくらいに」を忠実に守り続けた結果、実は俺は、「手をこすり合わせるとき、右手の薬指が前に出る癖」があることが分かった!
つまり、両手をすりすりとこすりあわせるときに、右手の薬指が左手に強く当たる。
というか、よくよく見ると、俺は右薬指第二関節が、外側に大きく曲がるらしい。だから指を伸ばしきった時に第二関節が前に出て、それでその部分だけ痛くなるようだ。
自分の体の理解が深まったのは喜ばしいが!
いかんせん痛い!
どうでもいいんだけど、親指の第一関節が外側に大きく曲がる人と間がらない人がいて、これは遺伝の影響なので、両親のうちどちらかは同じ曲がり方をするので確かめてみるといい!俺と父は曲がるタイプで、母と兄は曲がないタイプ。
で、これがあるばっかりに、「薬指が痛くなってきたら本日のノールビンドニング終了の合図」となっていた。
大体5時間くらいが限界。
これは、だめだ。
このままではなんとなく、ダメな気がする!
そこで、この問題を解決するために…考える葦である俺は…やはり作ることにした!
毛糸つなぎ機を!
ギリシャ神話の運命の女神、クロトー、ラケシス、アトロポスのモイライ三姉妹が糸をつむぎ、編み、ちぎるように、俺も編むことを覚えたならば、つないだりちぎったりすることにも同様の情熱を注がねばならないと思う。いやまぁ、つむぐのとつなぐのではだいぶ違うとは思うけど。そこはほら、ロマン優先で。
それで、ノールビンドニングでは毛糸は一般的(なのか?)に、手のひらでこすり合わせ、摩擦によって毛糸の温度をあげてフェルト化し、しっかりと絡みつかせる。
この理屈を、道具によって再現すればいいわけだ。
なので必要なのは、毛糸をホールドしつつ適度な摩擦を与えられる何か、だ。
人間の手のひらは非常に良くできていて、細かなシワや指紋と汗が絶妙な摩擦を生みだし、あらゆるものをつかむことができるセンサー付きの最強のマニュピレーターだ。この圧倒的性能に迫るには、並大抵の素材ではうまくいかない。
粗い紙、コルク、布、いろいろ検討してみたけれど、なかなかいい素材がない。
何か…何かないか…?
仕事そっちのけで悩んでいたとき、ふと気づいた。
「皮の代わりがないなら皮を使えばいいじゃない」
それだ!
さすがに皮というわけにはいかないから、革を使おう!
革、革はどこかにないか。手ごろな革…本革を…。
手芸店に買いに走るか…?
いや待て!
革はここにある!
まさに今、俺が仕事に常用している、革手袋!
男の店・ワークマンで数百円で売っている、圧倒的コストパフォーマンスを誇る革。これを使えば、いけるんじゃないか?
こんな風に!
そういうわけで、革手袋の手首のあたりを切って、適当な木片にタッカーで留めて、その革つき木片ふたつで毛糸をはさみ、火が出るくらいにこする!
すると!
…もうすでに画像で結果は見えているけど!
できた!
毛糸が、つながったわけだよ!
毛糸ちぎり機の悲劇再びは、なかった…!
でもちょっと、やっぱり手でやるより緩い。
あと、革のくずがちょっとはいる。
さらに、革の匂いが結構移る。
…まぁそのあたりは!
目をつぶる方向で!
それにこれ、試作に使ったのは安い毛糸だから、それである程度つながるということは、きちんとした毛糸ならより繋がってくれると思われるので。
試作の成功を受けて、試作第二号を真剣に作ってみる。
木片を手に取りやすい大きさにカットして。
革は…とりあえず画鋲対応で!
…DIYだからこのくらいの感じで許してほしい!
使っている木材はチーク。チークはヨットのボディにも使われるように、水に対してとっても強い。毛糸つなぎには霧吹きが必要になるから、木材にかかっても平気なように。
革は定期的に取り換えないといけないと思うけどね。
そして、試作第二弾の完成!
ちゃんとつなげた!
…ちょっと緩いけど…!
そこは、慎重に縫うとかして何とか、やっていこうと、思う。
うーん。
まぁ、ずっとこれを使うんじゃなくて、手がちょっと痛くなってきたらこれにバトンタッチする、みたいな運用でいいかなぁと、ね!
すっごい雑な作りだけど(いつものことながら)、やはり完成してみると愛着は出てくるね!
これで、限界を突破して縫い続けることが可能になりそうだぜ…!