学習曲線への挑戦 -ノールビンドニングを始める…ための準備をする-
「何かの技能を身に着けるには、10000時間の学習が必要である」
というまことしやかな説がある。10000時間。3~5年、がっつり取り組まねばなしえない数字だ。
しかし一方で「とりあえず1500時間」だとか「500時間だな」みたいな話もあって、目前の8~12時間にさえおののく俺たちには割と途方もない話になってしまっている。
果たしてどれが真実なのか。
そんな漠然としつつも初学者の心を折に来る説に一石を投じたのが、先にネットで話題になった、「とりあえず20時間やってみようぜ説」である。
元ネタはTEDのこちらのトーク。
The first 20 hours -- how to learn anything | Josh Kaufman | TEDxCSU
(必要に応じて字幕を日本語表示にしてほしい)
このTEDを聞いて突如やる気になるのが俺という男。あるいは全国全世界にいる俺のような人々であるので、「とりあえず何か20時間やってみるか…?」と思い立ったというわけさ。
単純だが!
いいんだよ!
そこで、せっかく何かを新しく始めるのだから、自分が全くやったことのないもの。およそ俺というイメージがないもの。全くかけ離れたものをやってみようという気になった。…かつ、安価に始められるもの、な!
そこで白羽の矢が立ったのが「編み物」である。
実際2時間やってみて、細編みまでできるようにはなった。これはすごい。ちょうど1時間15分くらいのところでものすごいストレスがかかり、「これはもうだめだな、俺には向いてないぜ…」となったんだけど、「まぁとりあえず20時間だしな」と乗り切ることができた。
おそらく、この「とりあえず20時間法」は、この「俺には向いてないタイム」を乗り切るためでもあるのだろう。
脳は学習の際、知識のインプットと整理を同時にやっているわけでなく、インプットしたものを適切に配置するための時間が必要だ。なので、学習を進めて行けばそのうち俺の脳の中でカチッとすべてが合わさる瞬間があるものだ。スポーツにしても、勉強にしても、趣味にしても。20時間あるいは10000時間の中で、この経験を幾度もやって、脳はその真価を発揮し最強に近づいていくのだろう。
ま、ま、それはそれとして、編み物である。
とりあえずやってみるにはネットの初心者サイトさんは最適だけど、やはりガチでやるには本がいる。
そこで出会ったのが、「ノールビンドニング」である。
ナイスなマダムがやって見せてくれている通り、これは編み物と縫物の中間というか、「糸を縫って仕上げていく」もの。カギ編み、棒針編みが伝達される以前のスウェーデンでヴァイキングたちが男のたしなみとしてやっていた勇壮な編み物である。
勇壮な北方の男…!
…これかっ!?
俺がやるべきは、これなのか…!?俺も…雪国の男として…!
しかもちょうど、9月8日に日本初の本格的なノールビンドニングの本が出版されている。
はじめてのノールビンドニング 縫うように編む、北欧伝統の手仕事
- 作者: 北村系子,マツバラヒロコ
- 出版社/メーカー: グラフィック社
- 発売日: 2017/09/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
これは、何かしらの…おおいなる、こう、なんだ、アレが、サダメが、働いているというのか…!?
そういうわけで、俺の20時間は、編み物からノールビンドニングにスライドしたのである。編み物用の毛糸も使えるしね!
ちなみに、「ノールビンドニング」と本にも書いてあるけれど、英語の綴りだと「Nalbinding」が多いんだよね。スウェーデンの言葉で「NÅL」は「針」を意味して、それを「bind」結合するという説も見た。しかしそれが本当かはわからない。いずれにしても「Nalbinding」と「Nalbindning」で表記ゆれがあることは確からしい。
さて、やると決めたからには道具がいる。
ノールビンドニングには、木の針が必要だ。しかしあの形状の針はそうそう売っているものではない。なにせ専門書が今初めて日本で出版されたというような状況だから、手芸屋さんでも取り扱っているところは極めて少ないだろう。
…しかし俺は、樹木の男。
木で作れるものならば、俺は作れるのである。
不格好だったり、全く洗練されてなかったりするけれども…!
木工のいいところは、外見を気にしなければ機能はある程度満たすことができるということだと思う。強度が足りなければ太いのを使えばいい!技術が足りなければ力技という逃げ道が用意されている。それが木工である。
…何か怒られそうな気がするが。
や、もちろん細工ものは技術は絶対に必要だけどね!?
っていうか木工作家さんたちは圧倒的な技術を持っているので、俺のごとき男のタワゴトは真に受けないようにな!あくまでシロウトのDIYの範囲での話だからね!
…さて、そこで作り始める。
まずは材料。材料といえば俺は樹木の男。大体はそろっている。
今回はパワーとモダニズムを全面に推し出す感じで、黒い木を使おうと思う。
ソノケリンである。
木材カットが恐ろしく雑なのは仕様だ!いいんだよ!削るんだから!な!
このソノケリンはローズウッドの一種。ローズウッドは切った時にいい香りがするので、「ローズ」と名付けられている。いわゆる香木だな。ソノケリンはその名の響きの通り、少しケミカルな香りがする。紫檀の代用としても使われる美しい木材だ。
ちなみにマメ科。バラ科ではない。…まぁ、この業界、名前の付け方がすごくふわっとしてるからな…!「サクラ材」なのに実際は「カバ」だったり。じゃあ本当の桜は?というと「本桜」と言われたり。本桜かと思ったらシウリサクラだったり。見分けは難しい。その場のノリで名前つけたりするしな…。
しかしまぁ、ソノケリンはソノケリン。インドネシアで育っている素晴らしい木材である。その名や付けられた属性に無関係に、美しくそこにある樹木であるに間違いない。外材、国産材にブランドの差異はないぜ。
その美しいソノケリンを、男の武器、ディスクグラインダーで削り取っていく…!
美しいものを強引に削っていく快楽…はおいといて、ゆっくり慎重に削っていくと、こうなる。怪我には注意。
ソノケリンの良い香りが当たりに充満する。木くずはめっちゃ黒い。これでこそだぜ。
大方の形をとったら、あとはサンドペーパーでひたすら微細な形を整えていく。木工細工の一番楽しい時間だと俺は思う。大変だけども。グラインダーでラクをすると、上の写真のように線状の傷ができるので、まずはこの傷を全部綺麗にすることを考えて削っていく。120番くらいかな。ザクザクやる。で、そのあとは320、600、800までかけて、
こうなる!…穴の位置とか、穴周りとかすっごい雑だけど。
ソノケリンは相当ハードな木なので、厚さ2mmとかでもたわむことはない。圧倒的なパワーをかければそりゃ多少はしなるけれど、少々のことではビクともしないぜ。折れる気配は一切なし!
適度な重さと固さは俺に集中力を与えてくれる。ソノケリンを選んでよかった。
常に触っていたい感触が魅力だね。
そして、こちらが完成品。荏胡麻油で表面を塗っただけ。オリーブオイルでも可。でもオリーブオイルは1日置かないと油っぽいので、乾燥の早い荏胡麻油に。
木工の表面処理に迷ったらとりあえずオリーブオイルでいいと思う(水に触れないなら)。オリーブオイル万能だし。マスターモコミチもそう言っている。
…と、いうところで、俺の20時間の挑戦が幕を開けたのだけれども…!まだ本は届かないから、しばらくは動画を見て練習だな!
もちろん、20時間を完遂できないという可能性も秘めつつも。
この木工の気軽さ、楽しさ、完成の喜びが、編み物やノールビンドニングにも訪れることを期待して。